会長ご挨拶

TOP > 会長ご挨拶

 
 第55回日本癌治療学会学術集会
 会長 渡邊 昌彦
 (北里大学医学部 外科 教授)

この度、歴史と伝統ある第55回日本癌治療学会学術集会の会長を拝命し、身に余る光栄に存じるとともに重い責任を感じております。本学会は創設以来50年余りで会員数18,000人を超えるほどに成長を遂げました。これは増え続ける患者さんの期待に応えたいと願う、癌治療に関わる全ての会員諸氏の情熱の表れであります。

今回は「それぞれの癌、それぞれの生」というテーマとさせていただきました。実に曖昧模糊としたイメージですが、癌の個性を掘り下げ、効率よく精緻な治療を実現し、個々の患者さんの生活に則した癌治療を提供する意図をわかりやすく表現したつもりです。

癌は多彩な症状や健診で画像、肉眼、そして病理の最終診断に至る「見た目」の診断が長く主流をなしてきました。また疫学的な研究を基に標準治療が提唱され、癌種ごとに診断や治療のガイドラインが作成され国際的なコンセンサスのもとに治療の均てん化が現在も進められています。しかし、癌には見た目だけでは解決できない個々の生物学的特性があることは周知の事実でありましょう。その個性を知るために、我々は蛋白質とアミノ酸、糖鎖などの遺伝子産物から知ろうと試みてきました。さらに遺伝子の発現解析が進歩するにしたがって、細胞の増殖・転移能を規定する分子を明らかにしてまいりました。今では遺伝子異常にともなう細胞の個性に合わせた治療が、乳癌、肺癌、大腸癌など様々な癌に積極的に進められています。しかし、このような個別化治療に用いられる分子標的薬の開発、臨床試験、生産には多額の費用を要し、受療者負担の増大を招きかねないといった懸念も高まりつつあります。

放射線治療の局所制御能の向上は、集学的治療を一般化させました。さらに粒子線治療はある種の癌に画期的な効果を示すことが明らかになりつつあります。また内視鏡外科の進歩は外科的治療の低侵襲化を進め、既に結腸癌や前立腺癌の標準的治療の一角をなしております。今後は消化器癌以外に、子宮体癌や肺癌など他の癌腫への内視鏡外科や、なかでもロボット支援手術の導入も推し進められています。一方、ロボット支援手術では機器・器材、粒子線治療は設置やメインテナンスの高額化という課題に直面しています。このように高度化する癌治療は医療費の増大といった負の側面も包含しており、この課題についても学会は真摯に議論を進めていくべきだと考えております。

巷では癌に関する情報が溢れ癌に対する関心が深まりつつある中で、患者さんは癌とともに「それぞれの生」を生きています。患者さんそれぞれが異なる経済的背景、社会的背景のもと、個々の人生哲学をもって懸命に癌と闘っています。然るに、われわれ医療者に求められるのは治療のみならず、生活に関する正しい情報の提供と、精神的かつ社会的なサポートを個別に行える体制を整えることと言えましょう。また、高齢化社会における癌治療についても、正面から議論を交えなければならない時代であります。第53回の小西会長の「がんを生きる」、第54回の中野会長の「成熟社会の癌治療」という、生活者の視線で医療者が患者さんとどう向き合うかの大命題をテーマに掲げてこられました。今回も本学会の社会的な責務として、参加者全員が患者さんを交え、協調してより良い癌医療の在り方を議論していきたいと考えております。

日本癌治療学会はこれまで領域や職種を超えて研究や教育、啓蒙に取り組んできており、本学術集会ではさらにその事業を発展させる場を提供します。本学会の最も大きな事業の一つである学術集会を、意義あるものとするために鋭意努力してまいります。